ご挨拶

Greetings

第98回日本生化学会大会
会頭 岩井 一宏
京都大学 理事・副学長

 第98回日本生化学会大会を2025年11月3日-5日に京都で開催することになりました。2025年は日本生化学会創立100周年にあたりますので、「生命の根源としての生化学 ―100年の時空を超えて未来へー」とのテーマを掲げ、これまで100年の日本生化学会の生命科学への貢献を踏まえつつ、生命活動における生化学の重要性を再認識しつつ、今後の生命科学の発展に向けて議論をして参りたいと考えております。

 生化学は生命現象を化学的な視点から解析する研究分野です。ワトソン、クリックのDNA二重らせんの発見を端緒として生命現象を分子レベルで解析する、いわゆる分子生物学が生命科学を席巻する様になってから、生命科学の研究者の中には生化学は古い学問分野の様に思われている方もおられるかもしれません。しかし、地球上の生物は全て生体高分子から構成されており、生命活動においてはそれらの生体高分子の活性制御、低分子有機物の代謝などが中核的に機能しています。生命活動を駆動するエネルギーも化学結合に内包されたエネルギーを利用しています。また近年、腸内細菌が産生する代謝物がヒトの恒常性維持に関わることも示されつつあります。すなわち、化学反応が生命活動の根幹であり、それゆえ、化学の視点から生命を解析する重要性は決して色褪せることはなく、生化学的な解析は生命科学には不可欠で、今後はこれまで以上に生化学的な視点なしに生命機能を解析することは不可能であると考えられます。

 本大会では初日の午後に日本生化学会創立100周年を記念して式典と記念講演会を開催いたします。記念講演会では、生化学の視点から「ユビキチン依存性タンパク質分解系」を発見されたAaron Ciechanover博士、画期的ながん免疫療法である「免疫チェックポイント療法」を開発された本庶佑博士、「細胞の酸素センシング機構」を発見されたWilliam Kaelin Jr博士の3名のノーベル賞受賞者のご講演を賜ります。また、若手研究者が描く「未来の生化学」に関する発表も予定致しております。

 近年、生命科学の解析手法は飛躍的に進歩して新たな技術が次々と導入され、生命科学は分子生物学、生化学、生理学、薬理学などの細分化された視点からではなく、複数の視点から生命現象を俯瞰してサイエンスを展開することが求められる時代になっています。日本生化学会の大きな特徴は理工医薬農など異なるバックグラウンドを持った研究者からなる学術集団である点です。その特長を活かしつつ、この第98回日本生化学会大会が今後の科学を担う多様な視点を持った若い方々と一緒に生化学、生命科学の新たな方向性を議論し、日本の生命科学の一層の発展の契機となることを願っております。

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